「ちょっと麗夏! ほらっあそこ!」


いきなり杏里が窓側を指さして言うから、反射的に振り向いてしまったあたし。


その先には………


「あっ……」


ようやく、杏里が頬を赤らめながら言った理由がわかった。


「おおー!  珍しいね、鈴原くんが一人でいるなんて」

「麗夏、チャンスだよ! 喋りかけてきなって!」


唯一あたしの好きな人を知ってる真弥たちは、早く行ってこいと言わんばかりにあたしの肩をポンポンと叩く。


「いっ、いやいや! 無理だってばー!」

「も~麗夏あ!」


恥ずかしくて熱くなった顔を手で押さえながら無意識にもう一度廊下を見た。


「……!?」


たった一瞬の出来事。



「あ、今もしかして目あった!?」



……それはもうバッチリと。


まさか、会話聞こえてたかな?

結構大きな声で話してたし、名前だって普通に言っちゃってるし!


さすがにもう見てないだろうと、私は廊下を確認した。


なのに……


あたしの視線と、鈴原くんの視線が絡み合う。

とっさに目を逸らそうとしたのに、なぜか逸らすことができなかった。


「おはよう」

「……えっ?」


初めてだった。

鈴原くんに挨拶をされたのは。


「れっ麗夏! 挨拶!」

「あ……っ、お、おはよ!」


「うん」


そんな整った顔立ちで微笑まれたら、誰だって好きになっちゃうに決まってる。


「一樹! おっはよー」

「おう、はよ」


鈴原くんの友達がきた瞬間、あっという間に鈴原くんの周りは人だらけで見えなくなった。