「私ね、あの頃は必死だった。
和泉のために香坂に話しかけて、和泉のためにサッカーも覚えて、和泉のためにいろんなところ歩いて……
なのに結局その過程に和泉はいなかったことになってさ。
それがすごく寂しかった。

だけどあんな夢みたいな時間も、香坂とのための時間だったのかなって。

それなら、和泉を好きだった時間も、無駄じゃないよね。」


「……あのさ、宮下。
名前で呼べよ。俺のこと。」


「祥也って?」


「そう。」


「いいよ。
じゃあ私のことも舞桜ね。」


「おう。」


ふふ、カレカノっぽい。
なんだかんだ気も楽だし楽しいもんなぁ…


「舞桜。」


変な感じ。
香坂…じゃなくて祥也に名前で呼ばれるの。


「ん?」


私がにやけながら祥也の方を向けば、祥也は私の頭に手を伸ばし、顔を近づけてきた。

キスする、と瞬時にわかり、私は目を閉じた。


ガタッー


だけど、なにか物音が聞こえて、私も目をまた開け、祥也の動きも止まった。
……だけど、祥也はまたすぐに近づけてきたから、私もまた目を閉じた、のだけれど……


ガッ、バターン!


と、後ろですごい音がなって、思わず振り返ればなぜか和泉が転んで顔面強打していた。


「ちょ、大丈夫?」


「いてて…やべー、超ハズい。
こんなとこでつまずいて転けるとか…高校生にもなってダサすぎ…」


「……つまずいて、転けて、顔面強打ねぇ。
すげータイミング。」


「…祥也、そろそろ寝る時間じゃね?
宮下も。」


「あ、ほんとだ。話しすぎちゃった。
また絶対美乃里怒ってるよー。」


「だろ!なら宮下も早く戻んねーと。」


「あぁ、うん。
……祥也寝る?」


「……しかたねーから寝るわ。
悪い、また明日な。」


「うん、おやすみ。」


結局キスはできないまま、私たちは各自部屋に戻り、眠りについた。