私はその男の希望通りに唄った。
なんだかそれだけのことで
二人の間にちょっとだけ特別な感じが出来た気がした。
マイクを手離した私の手を
男は握った。

「・・・手、熱いね」

6人の間で順にまわされたマイクの熱の所為か、
さっき飲んだ甘ったるいカクテルの所為?
これからおこるであろう出来事への
期待もしくは不安、恐れの表れだろうか。
確かに自分でも手が熱いと思った。

「外に行こう」

そう私の耳元で男は小声で言うと
私の手を握ったまま、おもむろに男は立ち上がった。
引きずられる様に私も席から腰をあげた。

ドアに近づいたところで
一瞬友達になにか言わねばと思い、視線を後方に泳がせた。

すでに一人、いや一組居なかった。
部屋に残っている方にも声を掛ける感じではなかった。
友達の短いスカートは端が捲れていた。
なんだか置いて行かれたような、もやもやとした気持ちになったのを
男は察したのか、私に言った。

「大丈夫」

高くもなく、低くもない。
耳馴染みの良い声でそういわれるとなんだかそんな気がした。
何が大丈夫なのか、とはまったく気にならなかった。