わたしの胸が痛んだ。誰と話をしているのだろう。お母さんとは思えなかった。それなら妹さんかお姉さんだろうか。だったら納得できた。だが、それが家族でない第三者に向けたものだとしたら。足が小刻みに震えているのが分かった。

 彼は電話を切るとわたしを見た。

「今からどうしようか」
「今日は帰って勉強する。教えてもらうためには、わたしも勉強してわからないところをはっきりさせておかないといけないでしょう」

 精一杯の声を張り上げた。
 彼が目を細めたのを見て、ほっと胸をなでおろした。

「そうだね。もうすぐテストだし、分からないことがあればいつでも連絡してくれてかまわないよ」
「ありがとう」

 わたしたちはそこからいつも別れる交差点まで一緒に行き、別れることにした。
 だが、振り返ったわたしは彼が電話を手に、いつもとは違う方向に歩いていくのに気付いてしまった。家ともバイト先ともおそらく違う。

 今から誰かに会うのだろうか。