「そんなつもりじゃなかったんだ。だから気にしないでいいよ」
「川本さんと少しでも一緒にいたいから、その口実作りです」

「君には敵わない気がするよ」

 彼はそう頬を赤らめながら、笑っていた。


 家に帰ると、まだお母さんは帰っていなかった。

 部屋に直行すると、パソコンで何気なく学費のことを調べてみた。彼なら普通にこの近くの国立大学に合格しそうだ。奨学金もいろいろある。だが、問題は大学院まで行かないといけないことだ。バイトをしても稼げる金額はたかがしれている。社会人として働く額に比べれば微々たるものだ。

 階下からわたしを呼ぶ声がした。

 階段のところまで行くと、お母さんがわたしを呼んでいたのだ。

 彼女の手にはわたしの好きなケーキ屋さんの袋が握られていた。

「ケーキを買ってきたの。一緒に食べない?」

 わたしは気持ちが進まないながらも、お母さんの誘いに乗ることにした。

 わたしがリビングに入ると、紅茶の匂いが鼻腔をついた。