「もちろん予備試験もあるから、過去形にするのは早いけどね」

 彼は慌ててそう付け加えた。家庭の事情のせいにするのに気が引けたのかもしれない。
 弁護士事務所で働ければ、彼は少しでも夢に近づくのだろうか。それとも奨学金を受けて大学に通う未来はありえないのだろうか。

「こんな話をしてごめん」
「そんなことないです。少しでも川本さんのことが知れてうれしかったもの」

「君はいつもそうだよね。あまり思わせぶりなことを言って誤解させないほうがいいよ」
「こんなこと、川本さんだけにしか言いません」

 わたしは頬を膨らませた。諭すような言い方に少しだけ反発をしてしまっていた。
 誰かと一緒にいたいという気持ちも、ここまで誰かに拘る気持ちもなかった。どんなに仲の良い友人に対しても同様だ。

「ごめん」

 わたしは首を横に振った。

「わたしこそ、変な言い方してごめんなさい。今日は本当にありがとうございました。お礼に何かおごらせてください」

 わたしは少し離れた場所にある自販機を指さした。