彼の目が潤んでいた。その目は初めて海を見たときの目に似ていた気がした。

「もう一度、会えたら……」

 彼は何かを言いかけて、唇を噛んだ。

「義高様?」
「そのときに言うよ。それまで待っていてほしい」
「はい。楽しみにしています」

 わたしは目を細めて、首を縦に振った


 わたしたちは義高様を見送ると胸をなでおろした。
 まだ第一段階が終わっただけだ。
 義高様が無事に逃げてくれることを願いつつ、わたしにできることもあるはずだ。
 
「お父様をどう説得したらいいのでしょうか」
「それは難しいと思います。義高様が鎌倉様に反旗を翻すつもりはないと分かっていただければいいのでしょうが……」
「義高様はどう考えているのかしら」
「そういうつもりはないと思いますよ」

 わたしは小太郎様の言葉にほっと胸をなでおろした。

「今日はわたしもここにいるわ。しばらく策を練りましょう」

 お昼過ぎに女性が戻ってきて、義高様とは問題なく別れられたと教えてくれた。

 太陽が傾きかけ、わたしはあくびを漏らした。
 義高様がいるように振る舞いつつ、策を練るが良い案が思い浮かばなかった。
 小次郎様は苦笑いを浮かべていた。

「そろそろ部屋に戻られたほうがよろしいかと」
「でも、わたしがいたほうが他の人もこの部屋には入ってきにくいと思うの」
「姫様がこんな遅くまでここに残っていては逆に疑われてしまいます。あとは運に任せるしかありません」
「そうね」