「違うの。彼女はわたしにこのことを教えてくれただけです。あなたも部屋に戻っていてください。このことがお父様やお母様に知られたら」

 彼女は首を横に振ると、部屋に入ってきた。そして、手にしていた着物を差し出した。

「わたしに案があります。うまくいくかは分かりません」

 彼女はわたしに案を授けた。明日、屋敷に住む女性たちが町に買い物に行くらしい。その中に義高様に着物を着せ混ぜてはどうかと。門番も一人ずつ顔の確認をすることはほとんどないようだ。その後、途中彼女たちからうまく離れ、隠しておいた馬で逃げてはどうかと。

「でも、そんなことをしたらお父様の怒りを買ってしまいます。お父様が皆に何をするか。それに馬を今から準備するなどどうしたらいいのか」
「大丈夫。みんな姫様の力になってくれます。馬もこちらで手配しておきます」

 力強い申し出だった。彼女はかならずそうしてくれるだろう。だが、不安もある。

「そんなことをあなたに頼んでは、あなたにもお父様は危害を加えようとするかもしれません」