「義純に好きな人ができて、付き合うことになったと聞いたときはびっくりしたよ。恋愛に興味がない人で、どんな可愛い子に告白されても、まったく心を動かされなかった。だから、嬉しかったんだと思う。あなたも義純のことが本気で好きなんだと分かったもの。だから、義純をよろしくね」

 わたしは頷いた。

 親に反対されても、わたしは彼を好きでいよう。絶対に。
 そう考えたとき、頭の奥が痛んだ。
 同じようなことを考えていた。
 でも……。

 わたしの中に蘇ったのは赤く染まった布を見たときの記憶だ。
 お父様の部下だった人がそれをもって屋敷に戻ってきた。
 義高を討ち取った、と。

 いや、あれは夢の続きで、現実ではない。違う。現実ではあるが、今よりもずっと昔の話で……。
 そう理屈では考えるが、心が別の場所で拒否していた。

 わたしの目頭が熱くなる。大粒の涙が勝手に目から零れ落ちた。
 わたしは何に泣いているのか自分でもわからず、泣き出していた。

「太田さん?」

 彼女は驚いたようにわたしに駆け寄ってきた。

「唯香?」

 いつの間にか近くに来ていた榮子の手がわたしの肩を抱いた。

「あなた、唯香に何を言ったの? 唯香を傷つけたらわたしが許さない」