家に帰っても、川本さんから何も連絡はなかった。わたしは風呂上りに勇気を出してメールを送ることにした。ただ、文面は悩みぬいた末、家に帰ったかどうかを尋ねるだけにした。返事はすぐに帰ってきた。どうやらあの後すぐに家に帰ったようだ。

 電話をしていいか尋ねると、わたしの電話に着信が届いた。発信者は川本さんだった。
 わたしは深呼吸をして、電話を受けた。

「今日は怖い思いをさせて悪かったね。たまたま君のお父さんを見かけたみたいで、それで」

 彼の言葉が徐々に語尾が小さくなっていった。

「そんなことないよ。ただ、びっくりしたよ。まさかわたしのお父さんと川本さんのお父さんが同じ会社で働いていたなんて考えもしなかったよ」
「俺も驚いたよ。まさか君の両親があの太田さんだったとは。その件で君のお父さんを逆恨みしているみたいで、本当に勝手な人だよ」

「逆恨み?」

 わたしは予想しなかった言葉に驚きの声をあげた。

「お父さんから何があったのかは聞かなかった?」
「お父さんは元同僚ということ以外は教えてくれなかったから。川本さんのお父さんとわたしのお父さんの間に何かあったの?」