彼の顔が引きつるのが分かった。
 わたしの顔も引きつっていただろう。

 彼に駆け寄るべきか、お父さんについていくべきなのか分からなかった。
 川本さんがわたしから目をそらした。
 おそらく彼は自分のお父さんにわたしがお父さんの娘で、顔見知りどころか付き合っていたと知られたくないのだろう。

 わたしは目をそらした。

 お父さんに連れられ、お母さんの車のほうに行くことにした。
 その途中、険しい表情をしたお父さんに尋ねてみることにした。

「さっきの人は知り合いなの?」
「元同僚だよ。いろいろあって、彼は会社を辞めたんだ」
「どうして?」
「それは言えない。悪いね」

 わたしは頷いた。

 お父さんは車の外でわたしに待っていてほしいというと、先に車に乗り込んだ。そして、お母さんと何かを話をしていた。お母さんの表情も目に見て暗くなっていった。

 二分ほど待って車に乗っていいと言われたが、二人の表情は暗いままだった。
 その日は食事だけをして、家に帰ることになった。

 その間、わたしたち家族の間で交わされた言葉は数えるほどだった。