いつの間にか周囲の人たちが足を止め、わたしたちのやり取りを見守っていた。
 怪訝な表情を浮かべている人。興味深そうに眼を輝かせている人。ただ、驚きを露わにしている人。それは人によって多種多様だ。

「唯香。お母さんのところに戻ってなさい。二人で食事に行きなさい」
「家族で食事か。幸せそうでいいな。もう香苗は帰ってこないのに」

 男性はにやにやとわたしたちを観察するような目で見た。

「早く」

 わたしはお父さんにせかされ、その場を離れることにした。
 だが、少しして人ごみの中に見知った姿を見つけた。
 お母さんの車に歩みかけたわたしの足が止まった。
 その人は男性に駆け寄ると、その手を掴んだ。
 わたしはその人から目を話せないでいた。

 その人が川本さんだったから。

「父が申し訳ありません。このまま家に連れて帰ります」
「ああ……」

 父はためらいがちに頷いた。

 男性は川本さんの手を振り払おうとしているが、川本さんがその手をしかと握ったまま離さなかった。

「行こう。唯香」

 お父さんはわたしのほうに歩いてきた。
 お父さんを見ていた川本さんの視線がわたしに向けられた。