だが、そもそもこの子猫は辻原の飼い猫なのだろうか。

それとも、たまたま居合わせただけの猫なのか?


本来なら、そんなのはどうでも良いことだとは思う。

なのだが…。


(何だ…?この猫は…)


俺は、その子猫の行動に目を疑った。

見かけは未だ歩くのも覚束ない程の小さな子猫。

実際、今まではあどけない様子でいたのだ。

だが、不意にその様子が一変した。

突然駆け出したかと思うと、辻原の乗せられた救急車へと一気に飛び乗ったのだ。


(馬鹿な…。結構な高さだぞ?)


あの小さな身体で、通常それは有り得ない。

その身体能力の高さは相当なものだと思う。

だが、それよりも何よりも。

その行動からは、辻原への執着心のようなものを感じずにはいられなかった。

暫く救急隊員と格闘の末、結局は車外へと放り出されてしまったのだが、その後もまだ車を必死に追おうとしていて。


何がコイツをそうさせるんだろう。


その行動に興味が湧いた。

コイツが辻原に懐いているのだとしても、普通そこまでの行動力が子猫などにあるものだろうか。


そして、コイツは見ていて面白い程に感情表現が豊かで。

救急車を見送って、まるで途方に暮れているようなその後ろ姿。

雨に打たれている、その寂しげな小さな背中に。

柄にもなく俺は手を伸ばさずにいられなかったのだ。