――『じゃあ恋愛って何?』

 さっき自分で訊いた質問に自分で答えを考えて見る。


 私は高校になるまで誰かを好きになる……なんて経験したことが無かった。

 みんなが黄色い声できゃーきゃー言ってるカッコいい先輩に便乗し、「あの先輩いいよね」なんてその場しのぎで言ってきたのだ。


 恋愛をして変わっていく友達も見てきた。

 好きな人の話になるとさっきまでとはまるで違う人物のように思えるくらいの雰囲気を漂わせ、好きな人を照れながらも話す姿はなんとなく不思議で。

 
 でも今ならなんとなくだけど、理解出来そうな気がするんだ。

 “好きな人がいるだけでそれだけで全てが違って見える”ていうのも。


 恋愛はきっと自分の心を優しく包み込むような、暖かくて眩しい気持ち。

 言葉に出せばほんと恥ずかしくて顔から火が出そう。

 でも、想っていたい。
 そう思うのが恋、なのかなー、なんて頬杖をつき天井を見上げながら、私は思っていた。


「……なーかぁのぉおおお」

 ふぇ?!

 先生が怒りに満ちた顔で私を見下ろす。

「お前、なにのんきにぼうっとしてるんだ。授業に集中せい! 授業にっ!!」

 そう言って世界史の教科書を丸めて私にバコーンと鈍い音を盛大に響かせて振り落とした。

 地味に痛いんですけど。
 
 その私の姿にみんな笑っていた。
 
 
 見事なほどの大爆笑っぷりだった。

 私はなるべくその場に波風立てないよう、ゆーっくりと視線をノートへと向けようとしたとき、一之瀬君と目が合ってしまった。
 
 するとなんだかさっきの考えが急激にクサく思えてきた。

 は、恥ずかしいー!

 
 ばっと顔をノートに向け、カァッと顔が赤くなる衝動を必死で抑えた。