裕「美織」




円衣裕太は死角に入ると私の腕を掴む





美「やめて、名前で呼ばないでよ…バレちゃう…」



裕「あぁ、ごめん…何怒ってるんだよ?」



美「別に怒ってなんか…」




そう言って私は円衣裕太の腕を振り払った
円衣裕太は小さく溜息をつくと、優しい声で落ち着かせるように言った。




裕「言っただろ?紗保とは幼馴染みでなんにもないんだ…。普通に友達として今まで接してきたし、二人で遊んでても俺らにとっては当たり前の事なんだよ…
でも、美織がやだって、不安だっていうなら俺やめるから…」



美「……。」





なんにもない…?

そう思ってるのは円衣裕太だけだよ
紗保さんは…そんな風に友達なんて思った事、きっと一度もないと思う




だけど言えない。
円衣裕太に、紗保さんは円衣裕太の事が好きなんだよ。なんて言えない…

円衣裕太は紗保さんの気持ちを知らないから、本気で友達と思ってるから何も後ろめたい事も無く、私の前で紗保さんと遊ぶ約束が出来たんだ

だけど紗保さんの気持ちを知ってる私は、素直に行っておいでなんて言えない……

小さくて…つまらない女。





裕「美織?」



美「…違うの。本当に怒ってるとかそういうのじゃなくて、ただあんまり一緒に居るのもアレかなって思ったからはけただけで…全然、私裕太の事信じてるし」



裕「…本当に?」





その時、スタッフの「そろそろ本番行きまーす」の声が響いた。私は円衣裕太に返事をせずににっこり笑いかけると先にセットに向かう

取り残された円衣裕太は、暫くしてから来た。
正直、あの場で「本当に大丈夫」なんて言葉、今の私には言えなかった



こんなに愛されているのに…ドンと構える事も出来ずうじうじと心配なんかしてて、円衣裕太に申し訳ないよ…



だけど、少しでいいから
ほんの少しでいいから
私の気持ちもわかってね?



きっと紗保さんが円衣裕太を好きじゃなかったら、紗保さんの事も心から好きになれただろうし
円衣裕太と遊ぶ事だって、なんとも思わなかったと思う…


その日の収録は、終始顔色が悪かったと後で佐々木に怒られた