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玄関の開く音がした




富「…おぉ。美織、起きてたのか」





早朝、仕事を終え帰ってきた富田は私を見て驚いた。

そしてまもなくして、私の横に置いてあるキャリーバッグに気付くと、少しばかり肩を落とした。





富「…決めたのか。」



美「…………ごめんなさい」



富「どうして謝るんだ。嬉しいよ…宛はあるのか?もし、力になれる事があれば言ってくれ」



美「ううん、大丈夫…。私一人で見つけるよ」





富田はニッコリと笑った

「そうか…」富田はゆっくりとガラスの壁に近づき、東京を見下ろした。私も隣に立った




美「…あ、あのビル…
もう全部なくなってる。」




私はつい最近、壊されていたビルの面影が少しも残っていない事にびっくりしてその場を指して教えた




富「…だから、見えないって」




富田は優しく笑う。





美「…待っててくれる?」



富「……?今から、円衣裕太を探しに行くんだろ?」



美「…元気な姿を確認したら帰ってくるつもり。…私はこれからも、富田さんと暮らすよ。」




それは私の本心だった




富「何を馬鹿な…。美織、だめだ」



美「…裕太は、私の知らないところで、私を思い出していてくれたかもしれない。
だけど富田さんは10年間も、私の隣で、私を支えてくれた…」



富「…世話になったからとか、今更裏切れないとか、そう思ってるならやめてくれ。美織が円衣裕太のところに行ったって、それは俺にとっては裏切りではない。俺が10年間、望んでいた事だ」



美「…このままお別れ?
私達の10年間は、そんなにあっけなく終われるの?」



富「…俺も美織も、お互いの心に大切なものが残ってる。あっけなくなんかない…」



美「…私が居なくなっても、ここに住むの?」





富田は微笑むだけで、返事をしない





富「俺は田舎者の貧乏人だったから、初めて東京に来た時、東京タワーのデカさに唖然としたんだ 。

あの時の衝撃は、忘れられない
ウキウキしてやってやる!って力がみなぎってきた
絶対にいつか、東京タワーを上から見下ろせる様な男になる…って

がむしゃらに働いたさ。
人並みの苦労や、努力なんかじゃなかった
時には悪い事にも手を出した…
人よりも、何倍も命を削って俺はこの地位を掴んだんだ」