千尋が大樹さんと別れたのは、私と一条くんが大学に乗り込んだ次の日だった。

朝、登校してすぐに真子が駆け寄ってきて、その報告をしてくれたのだ。

「大樹さんのほうから、”今までごめん、別れよう”って言ってきたの」

「そっか。よかった…のかな?」

「よかったよ。真子、何かしてくれたの?」

一条くんと過去に行って確認したこと、会社が嘘だったことや千尋を騙していたことは、千尋には言わなかった。
どうやってそれを知ったのか聞かれたら困るし、一条くんの秘密がバレるようなことは避けたいから。

千尋にとって、知ったほうがよかったのか知らないほうがよかったのかは、私にはわからない。
だけど、痣が消えていくのと比例して大樹さんのことも忘れていけたらいいと、そう思う。

「別に、私はなにも」

「だよね、うん。……ありがとう」

なにもしてないって言ってるのに。
少し照れくさそうに千尋は私に笑った。

「真子がすごい形相で教室飛び出してったでしょ?あの後、4組の前で一条に呼び止められたの。”あいつどうしたんだ”って聞かれた」

一条くんが、千尋から話を聞いたと言ってたのを思い出した。
それがなかったら、私1人では大樹さんを説得出来なかったかもしれない。

「説明したらさ、一条のやつ血相変えて真子のこと追いかけてったんだよ」

「え……」

あの一条くんが、血相変えて、私を助けに来てくれたんだ。
きっと出会った頃には考えられなかった。

「なーんかさ、愛を感じるよねえ」

「っ!?」

千尋がにやにやしながらそんな事を言い出すから、返事に困ってしまう。

「普通、なんとも思ってない人のために出来ないと思うけど?」

そうなのかな。
でも一条くんって、あんまり何考えてるかわからない人だから。

私の気持ちには、気付いているだろうか。