一条くんの家に戻ってきた。
さっきの喧騒の中から、急に静かな空間へと身体が投げ出されて、耳がおかしくなってしまいそうだった。

だいぶ気持ちが落ち着いて、冷静になってきた。
やっぱり千尋は騙されてた。何もかも嘘だった。それを千尋に伝えるべきなのか、考えないといけない。

「大丈夫か?」

「あ、えっと」

落ち着いてみれば、こうして一条くんと2人きりになるのは久しぶりだった。
それどころか、会話したのでさえ久々だ。

怒って、ないのかな。
自分勝手に逃げ出した私のこと。

「……1人で解決しようとするな。むやみに刃向かったって言いくるめられるだけだ。こういうのは、確実に証拠を押さえて相手が言い逃れ出来ないようにしてから、話をつけに行くんだ」

「……ごめんなさい」

「だから最初から、俺を頼ればよかったのに」

ああ、もう。
胸がぎゅっと締め付けられて痛い。
どうしてこんなに簡単に、私の心を捕まえるんだろう。
こんな我儘な私のことだって、全身で受け止めてくれるんだ。

「これからあいつの大学に行くんだろ?一緒に行ってやるから。……ほら行くぞ!」

「うん!」


涙が出そうになって、急いで目をこすった。
前を歩く一条くんの背中を追いかけながら、心の中で強く思う。

やっぱり私、一条くんのことがすごく好きだ。