「失礼しまーす」

千尋に連れられてやってきたのは保健室。
先生は不在のようで、緊急の場合は職員室へ行くようにと書かれた札がかかっていた。

「それにしても綺麗に頭に命中したよね。倒れるからびっくりしたけど」

「倒れたっていうか、完全にバレーボールに不意を突かれてびっくりしてこけたんだけどね……」

「どうせ保健室来るはめになるんだったら当たる前に行っとけばよかったのに」

「返す言葉が見当たりません」

千尋は笑いながら、ビニール袋に氷を入れて持ってきてくれた。
これは完全に面白がってる顔だ。

「どうする?ちょっと寝とく?」

「そうする。6時間目も保健室って先生に言っといて」

「はいはい。じゃあ私は授業戻るから」

保健室を出て行く千尋にひらひらと手を振って、頭にビニール袋を乗せた。
連日の夜更かしなんてするもんじゃないなと、顔をしかめながら思った。

どうせなら熟睡してやろうと、3つあるうち1番窓際のベッドを選んでカーテンを開けた。

「アンタ頭にバレーボール受けたんだ?」

「ぎゃっ!?」

今まさに乗っかってやろうと思っていた場所から声がして、驚いて後ずさった。
心臓が止まるかと思ったほどだ。

「保健室では静かにしろよ」

「いいい、いい一条くん!?」

「なんだそれ」

なんと、誰もいないと思っていたベッドに一条くんがニヤけながら寝そべっていた。
入ってきたときに静かで人の気配がなかったので、てっきり先客はいないと思い込んでしまっていた自分を恨む。

一条くんは、私の頭に乗った氷入りビニール袋を見て笑っている。
…絶対に馬鹿にされてる。