「...ちょっと買いすぎじゃないかい?」

「そんなことないよ。これくらいいつも通りだよ。」

一区画に積まれたトマトを二つ手に取って、片方を置き、一つ別の物をとるという光景は、格安の野菜の選別を行う主婦のようだった

「まるでケチな主婦みたいだな」

「うるさい、日持ちが良くておいしいやつ一つでも選びたいじゃん」

授業では教えてくれないから個人的な印象で買ってるんだけど、と決めた3つのトマトを丁寧にかごに入れる

「...知ってるかい、トマトは日本語名だと赤茄子っていう異名があるんだ。そのほかにも唐柿(とうし)、蕃茄(ばんか)、小金瓜(こがねうり)、極めつけは珊瑚樹茄子(さんごじゅなす)ともいう。」

「いっぱいあるのね」

目をぱちぱちさせてかごに入れたトマトをじっと見て たしかに赤茄子だね とうなづく彼女は、ほかには?と口を開くまでさほど時間はかからなかった。

「他?ごめん、俺にはよくわかんないや。ネットで調べれば出てくるんじゃないかい?」

「ネット使おうにもねえ、私あいにく携帯はネットつながらないの。帰れば使えるけど。」

他の野菜を見て回りながら、これいいかもと漏らして値段を見てからぽいぽいとかごに入れていく。

「...ああそういえば、唐柿はイチジクでもあるみたいだね」

「無花果?全然似てないのに」

昔の人は感性が不思議なのさというと、彼女も納得して品定めに戻った。


「そういえば聞かなかったけど、そんなに買ってどうするの?」

「お弁当作るの。大変なんだよ、毎日早起きして作るの」

「ちなみに明日のメニューは」

「サラダ」

道理で野菜類しか入れてないわけだ。肉類には目もくれず、野菜ばかり入れていく彼女の食生活はどうなっているんだとあきれるしかなかった。