二十代、華々しい大学生活を終え、普通の会社に務める俺、日比野夕夜(ひびのゆうや)は日々たまりゆくストレスを発散するために、急ぎ足で歩いていく。
俺は"鉄ちゃん"と呼ばれる、電車の写真をとったりする人々の中の1人だった。
給料を貯めに貯めて、一眼レフとレンズを買った時はもう嬉しすぎておかしくなるかと思ったくらいだ。今までデジカメだったのがこんなに高性能な物で撮れるなんて!!と舞い上がって数ヶ月、俺はそのカメラでひたすら写真を撮っていた。
有給を使えばだいたい遠くへ汽車を取りに行ったりしている。そんな俺の姿をみた同僚は、お前おかしいよと笑った。
いんや、何がおかしいんだ!俺はおかしいとは思わない。なんてったって趣味なんだ。大好きなものは何時間かけてでもいいものに仕上げたい。そんな思いで同僚を引きずっていった有給は最悪だった。なにせストレス発散になりにすらしなかったのだから。
そんな日々はしばらく続き、いつの間にか"鉄ちゃんサークル"とかいう大学生を彷彿とさせるような、ただの飲みサークルが出来ていた時は流石に笑ってしまった。馬鹿じゃないのか、俺は真面目にやっているんだ。そんな馬鹿げたことで俺とお前らをひとまとめにしないでくれと。口に出せる筈もなく、飲みサーはただの頭の悪い人の気持ちを分かろうともしない同僚たちによって本来の意味とは別のものに成り代わろうとしていた。
それから数日、俺はその同僚がほかの同僚に愚痴をこぼしているところをたまたま通りが勝って聞いてしまった。
「あいつさあ、いるじゃん?日比野。あいつキモイよな。カメラオタクがなんでうちにいんの?てか本当邪魔だよな。なんだよ電車電車ーって。お前そんな電車好きなら鉄道模型でも作ってろよってな!!絶対に俺は買わねーけど」
馬鹿みたいなことをゲラゲラと笑う同僚にも嫌気がさし、俺は会社で初めて怒鳴り散らした。
そんな俺は今日居てもたってもいられずに、会社にカメラを持ち込み地下鉄の写真でも撮ろうと意気込んでいた。
同僚はもう俺に話しかけようともしなかったが、俺はすっきりした気分になった。なんてったって邪魔しないからな。
仕事を早めに切り上げ、帰宅ラッシュのタイミングを狙う。早く、早くしなければ電車は過ぎてしまう。
足はどんどんと早くなり、いつの間にか駅の中、ちょうど電車の顔が見られる位置にカメラを設置することができる。
今日はいい日だ。
そう、思っていたのに。
ふわりとカメラごと宙に浮いた気がした。
女性の悲鳴と男性の怒号が同時に上がった。
あれ、なんで宙に浮いてるんだ俺。
目の前には、
俺がとろうとしていた電車がもう既に目の前に迫っていた。
いつの間にか三脚は取れて、手元には初めて買った一眼レフとカメラが握られていた。
ああ、抑えが甘すぎたなとぼんやりと考えていると、電光掲示板が目に入る。
"2016年7月7日"
いつの間にか電車のブレーキの音が生々しく近くに聞こえた。
がしゃん。
俺は暗い水の中に沈んでいった。
俺は"鉄ちゃん"と呼ばれる、電車の写真をとったりする人々の中の1人だった。
給料を貯めに貯めて、一眼レフとレンズを買った時はもう嬉しすぎておかしくなるかと思ったくらいだ。今までデジカメだったのがこんなに高性能な物で撮れるなんて!!と舞い上がって数ヶ月、俺はそのカメラでひたすら写真を撮っていた。
有給を使えばだいたい遠くへ汽車を取りに行ったりしている。そんな俺の姿をみた同僚は、お前おかしいよと笑った。
いんや、何がおかしいんだ!俺はおかしいとは思わない。なんてったって趣味なんだ。大好きなものは何時間かけてでもいいものに仕上げたい。そんな思いで同僚を引きずっていった有給は最悪だった。なにせストレス発散になりにすらしなかったのだから。
そんな日々はしばらく続き、いつの間にか"鉄ちゃんサークル"とかいう大学生を彷彿とさせるような、ただの飲みサークルが出来ていた時は流石に笑ってしまった。馬鹿じゃないのか、俺は真面目にやっているんだ。そんな馬鹿げたことで俺とお前らをひとまとめにしないでくれと。口に出せる筈もなく、飲みサーはただの頭の悪い人の気持ちを分かろうともしない同僚たちによって本来の意味とは別のものに成り代わろうとしていた。
それから数日、俺はその同僚がほかの同僚に愚痴をこぼしているところをたまたま通りが勝って聞いてしまった。
「あいつさあ、いるじゃん?日比野。あいつキモイよな。カメラオタクがなんでうちにいんの?てか本当邪魔だよな。なんだよ電車電車ーって。お前そんな電車好きなら鉄道模型でも作ってろよってな!!絶対に俺は買わねーけど」
馬鹿みたいなことをゲラゲラと笑う同僚にも嫌気がさし、俺は会社で初めて怒鳴り散らした。
そんな俺は今日居てもたってもいられずに、会社にカメラを持ち込み地下鉄の写真でも撮ろうと意気込んでいた。
同僚はもう俺に話しかけようともしなかったが、俺はすっきりした気分になった。なんてったって邪魔しないからな。
仕事を早めに切り上げ、帰宅ラッシュのタイミングを狙う。早く、早くしなければ電車は過ぎてしまう。
足はどんどんと早くなり、いつの間にか駅の中、ちょうど電車の顔が見られる位置にカメラを設置することができる。
今日はいい日だ。
そう、思っていたのに。
ふわりとカメラごと宙に浮いた気がした。
女性の悲鳴と男性の怒号が同時に上がった。
あれ、なんで宙に浮いてるんだ俺。
目の前には、
俺がとろうとしていた電車がもう既に目の前に迫っていた。
いつの間にか三脚は取れて、手元には初めて買った一眼レフとカメラが握られていた。
ああ、抑えが甘すぎたなとぼんやりと考えていると、電光掲示板が目に入る。
"2016年7月7日"
いつの間にか電車のブレーキの音が生々しく近くに聞こえた。
がしゃん。
俺は暗い水の中に沈んでいった。