営業部を希望した茜は将来この会社ではなくてはならない人物だ。会長には子どもは一人だけしかいない。それも、娘が。その娘の美佐は若い頃に過ちを犯し高校生の時に茜を出産した。

 その茜が母親と同じ過ちを犯さない為にもと俺と結婚することになった。会長命令で結婚したものの、当時、俺は茜の母親との結婚を望んでいた。それが茜に知られるところとなりそれが多分原因で別居し離婚に至った。

 そんな茜を何故離婚した元夫の部署に配属したのか、本当の狙いが何なのかを知りたい。


「黒木です、入ります。」

「黒木、今日から茜がお前の部署で働くそうだな。しっかり鍛えてやれよ。」


 やはり会長は全てお見通しだ。なのに、離婚した夫婦を同じ部署で働かせるのはどういう意図があるのだろうか。俺は疑いの目でしか会長を見ることが出来ない。


 会長室へ入ったものの、それだけ言うと会長は自分のデスクへと座ると俺の顔を見ては薄ら笑いを浮かべる。相変わらず気持ちの良いものではない。俺はいつもここでは部外者扱いだ。

 茜と結婚していた当時から一族の立場を約束しながらも俺は何時だって舞阪家では蚊帳の外だ。

 俺は納得出来ない内はこの部屋から出るつもりはなく会長の座るデスクの前で会長を睨んでいた。



「そうだ。お前には報告しておこう。」


 会長はかなり嬉しそうな表情で俺を見上げては組んでいた腕を広げ肘掛けに腕を着いていた。


「美佐が男子を妊娠したんだ。」

「美佐さんが? いったい誰の子なんですか?」


 会長の一人娘である美佐は俺より4つ年上の38歳のはずだ。そして、茜の父親である光一と離婚後誰とも結婚することなく独身を通していたはずなのに、そんな美佐が妊娠するとは考えられなかった。