三人が一斉に俺を見るものだから茜が何事かと俺の顔を不思議そうに見ていた。
「私の名前に何か?」
「それがね、君と同じ名前の『茜』って女性に課長が振られたばかりなんだよ。それで、」
「新藤!余計な事は言わなくても良い!」
まるでそれだと茜と同じ名前の女と付き合って振られたようで、とんでもない誤解をされても困る。今更、茜とはどうにもならないだろうが、こんな誤解だけはして欲しくない。
「同じお名前の方とはそれは奇遇ですね。でも、これも何かの縁ですから、よろしくお願いします。黒木課長。」
「新藤、お前が舞阪の指導係だ。しっかり仕事を教える様に。余計なことは教えなくてもいいからな!」
「だったら、俺じゃなくて狩野にすればいいのに。」
「お前は黙って従えばいいんだ!」
「うわぁ・・・めっちゃ機嫌悪い。」
機嫌が悪いのではない。俺を見る茜の平然とした顔が気に入らないだけだ。
こんな所にいては息がつまりそうになる。それに、何故、茜がこの部署へ配属になったのかそれを知りたい。
「少し出てくる。後は頼んだぞ。」
「ごゆっくりどうぞ。」
商品開発課から出て行くと、早速廊下まで楽しい話し声が聞こえて来た。きっと、新入社員の歓迎会でも始まったのだろう。
今日の為に狩野がまたお菓子を焼いてきたに違いない。今頃は佐伯までも一緒になって新藤と狩野がコーヒーでも淹れ乍ら狩野のお菓子を広げてお茶会に早変わりしたのだろう。
あんな社員ばかりだが、個人の能力は見事なものであの人数だけで商品の開発が良く出来るものだと感心させられる。
特に、新藤はかなり軽めの男だが発想は素晴らしい。そして、その発想を更に伸ばすのが狩野だ。それを上手くまとめ上げるのが佐伯だ。
なくてはならない人材なのは間違いない。