佐伯も狩野も自己紹介を終えると俺を憐みの目で見始めたが、その目は一体何を物語っているのか俺にはさっぱり見当もつかなかった。

 すると、今度は新藤が茜と握手して自己紹介を交わしていた。社員の紹介で握手する必要はないだろう?!と、言いたくなったが、狩野も佐伯も新藤の後に握手していた。俺抜きでさっさと親睦を図ろうとするこの連中に呆れた俺は一度咳払いをした。


「風邪ですか?課長はもう年なんだから、今日は早く帰って寝て下さいよ。」

「新藤、お前は黙ってろ。」


 茜はやっと俺の顔を見ると軽く会釈をした。その瞳は他の者を見る目と同じ全く初対面の相手を見るような目をしていた。そんな目をされるのが悔しくもあり悲しくもあるが、今は、それで十分だとも思えた。


「それで、遅刻の理由を聞かせてもらおうか?」

「はい。遅れたことは謝ります。でも、私が希望した部署と違う部署への配属だったので人事部へ直談判に行っていたんです。」

「違う部署に? それはどこだ?」

「営業部です。私は営業部での仕事を望んでいました。でも、何故かこちらで勤務するように指示されたので・・・・」


 茜はやはり俺と同じ部署を希望したわけではなかった。それもそうだろう。しっかり茜には嫌われて離婚したのだから。そんな元夫と同じ部署で働きたいとは思わないだろう。


「あの、舞阪さん、茜さんって言うんですよね?」

「はい、そうですが。」


 狩野が茜に名前を確認すると、新藤も佐伯までもが俺の顔をやはり憐みの目で見始めた。きっと「茜」と言う名前に反応したのだろう。俺が「茜」と言う女性に振られたと思い込んでいる連中だ。