会長も美佐も俺に話していた「見合い」とは一体何だったのだろうかと後でその事を考えた。会長は茜には俺以外の男との見合いを強要し、俺には社長の娘と結婚させようとした。

 美佐は俺の見合いについては妙な物言いをしていた。もしかしたら会長が何か思惑があってのことだったのかと、疑問に思ったもののこの時までは何も聞かされずに俺と茜は結婚出来る悦びで頭の中はそれ一色だった。

 商品開発課へと遅れながらの出勤をした俺達。当然の如く新藤の鋭い睨みに迎えられた。狩野と佐伯は真実はどこにあるのだろうか?と言う顔をしていたが、あまり新藤の話は鵜呑みにしていなかったようだ。


「課長、随分ゆっくりのご出勤ですね! しかも、茜ちゃんも一緒とはどういうことなんっすか?!」


 かなりご立腹というところだ。それも仕方のない事だろう。新藤や他の部署の連中を茜から追い払っているのは俺なのだから。その俺が茜と遅刻した上に同伴出勤しているのだから。睨まれて当然と言えば当然のことをしているわけだ。

 しかし、新藤がどんなに立腹しようが俺は茜と婚約し結婚が決まったのだ。会長からも承諾を得ることが出来た。しかも、俺は黒木の姓から舞阪を名乗ることになる。そして、茜の夫としてこの会社とも生涯を共にすることになる。

 会長から俺達二人の関係は公表しても構わないとのお達しで、これからは堂々と俺と茜は婚約者同士として振る舞えることになった。

 これからは誰にも気兼ねなく過ごせることになった為、職場への配慮も必要がなくなったことになる。いや、逆にかなりの配慮が必要になるのかも知れない。

 なんと言っても茜は会長の孫であり、人事部長の光一の娘であり、そして、次期常務になる俺が茜の夫になるのだから。


「皆に大事な話がある。」


 俺が何時になく畏まった態度を取ると新藤も少し表情を硬くして俺の顔を見ていた。


「俺はもうすぐ営業部へ戻る。ここは佐伯に任せることになる。新藤と狩野は佐伯をしっかりサポートしてやってくれ。」


 俺の言葉を聞いた皆はやはり急な話にかなり驚いていたようだ。