「黒木の名を捨てて舞阪の姓を名乗って貰う。それが条件だ。」


 俺にはとんでもない条件だ。茜を嫁に貰いたい気持ちは強い。しかし、会長のこの言葉の意味は俺が舞阪の一員だと言われているばかりか、ゆくゆくの会社での地位も確約されたも同じことになる。


「いいのですか?光一さんを差し置いて。」


 美佐が男子を妊娠したのであれば、順序からいけば光一が舞阪を背負っていくはずの人物になる。そして、その後に、美佐の長男である今度生まれるその男子が跡を継ぐはずだ。


「光一君は舞阪を嫌って出て行った馬鹿者だ。その上に今度は美佐を嫁に貰いたいなどと抜かしおった。」

「ええ?! お母さん達結婚するの?!」


 これには流石に俺も茜も驚いた。妊娠していたとは聞いたが、子どもはどうするのだろうかとそんな心配をしていた。このまま私生児では可哀想過ぎると思っていたが、やはりそこは二人で話し合ってやり直すことにしたのだろう。


「ごめんね、茜。お母さんはお父さんの所へ行きたいの。行ってもいい?」


 美佐は少し恥ずかしそうにしていたが、幸せそうなその笑顔は既に結婚に向けてのものだと分かる。

 茜は両親の結婚にとても感激していた。すると、握り締めていた俺の手を離し美佐の所へと駆け寄った。母子が抱き合っては喜んでいた。こんな光景が見れるとは俺も嬉しさで顔が緩みっぱなしだ。


「美佐が産む男子が成長するまでにはまだ時間がかかる。それまではお前が社長の英寿を支えるんだ。いいな?」

「分かりました。」

「来月辞令を出す。お前は営業部へ戻す。そして常務として頑張ってくれ。期待しているぞ。」

「はい!ありがとうございます。」