俺と茜は出勤準備を済ませると会社へと向かった。時刻はかなり遅くなってしまったが、会社へは二人一緒に遅刻すると連絡済みだ。そして、会長にもアポを取り今から茜と二人で面会に行くと伝えている。
会長直々に連絡しても良いのだが、電話の先で俺達の仲を裂かれては堪ったものではない。俺達の結婚の決意を納得して貰い再婚を許して貰う為に会長の部屋を訪れる。
いや許しを貰う為に行くのではない・・・・・報告に行くんだ。
「会長、お話があります。」
「なんだ二人が揃うなんて珍しいな。」
会長室へと乗り込むと会長は応接セットの奥のソファーに座っていた。ソファーに深々と座っている会長はいつもの煙草をプカプカと吸っていた。
俺と茜が二人並んでいても驚く様子はなく「それで何だ?」と仕事の話でもしに来たのかと言いたげな顔をしていた。
ここで俺に勇気を与えて欲しいと茜の手を握り締めた。すると茜は俺の顔を見ては手を握りなおし指を絡めた。茜の指の間から伝わる体温に、緊張していた俺の心が落ち着き、会長と対峙することが出来た。
「話しとはなんだ?」
会長は煙草を灰皿に押し付けると俺達の方を向いては両手を肘掛けへと置いた。その貫禄は未だに現役で会長は幾つになってもその威厳は計り知れないものがある。
俺は茜の手をギュっと握り締めてから会長を真っ直ぐ見つめた。
「茜さんと結婚します」
「誰がだ?」
「私がです! 茜さんと再婚します! 会長がどんなに私に見合いさせようとしてもそれはお断わりします。私には茜がいるのですから。私の妻は茜です。過去も未来も妻は茜一人です。」
俺は会長の反応が怖いながらも必死に最後まで言い切った。その結果俺達の仲を裂かれようとも俺は絶対に茜を手放さないと決めたんだ。