「まだお母さんが好きなの?」
茜は俺がいつまでも美佐へ感情を残していると思っているようだ。残念ながら俺は茜を失ってどんなに茜が大事な存在だったか気付かされた。
その日を境に俺は茜の事ばかりを考えていた。
大学生になった茜には交際するような男が出来たのだろうかと、見えない相手に嫉妬しながらこの手に抱き締められない茜を想い忍んで暮らして来た。
もし、あの時離婚せずに済んだのであれば、俺は夜毎茜を愛してやったのにとそんな夜を想像して眠る日が続いた。
だから、この前、茜のアパートに泊まった時、本当に俺は理性との闘いだったんだ。なのに、茜はそんな俺の気持ちなどこれっぽっちも分かっちゃいない。
「茜、これだけはハッキリ言うよ。茜のお母さんの事はもう過去の事なんだ。終わったことだよ。今は、茜の母親という目でしか見れない。」
「本当に?」
「ああ、本当だ。信じて欲しい。」
「うん」と頷く茜からやっと溢れ流れていた涙が止まった。そして俺に微笑みを見せてくれた。その微笑みがとても可愛くて俺はもうその茜の笑顔に理性は保てなかった。
「茜、今までごめん。」
俺はいつの間にか茜の頬を両手で挟むとそのまま引き寄せて唇にキスをした。茜と結婚し2年間という結婚生活を過ごした俺達はこれまで一度もキスをしたことがなかった。
夫婦だったのにキスすらしていないのは本当に呆れるほどに最悪の結婚生活だと今更ながらそう思えた。
「優也さん」
「キスいや?」
「ううん。いっぱいして!」
茜の目からまた涙が流れた。その涙は悲しい涙ではなくきっと悦びの涙だと俺はそう思いたい。
だって、茜が幸せそうに微笑みながら俺に抱きついたのだから。そして、「もっとキスして」っておねだりする茜はとても可愛くて二度と離したくないと思えた。
だから、俺たちはそこが職場だという事も忘れて抱きしめあって沢山キスした。何度も何度も、思いの丈をぶつけるかのように延々とキスをし続けていた。