「俺達はもうとうの昔に別れているんだ。それに、会長から茜も見合いを勧められているんだろう?だったら、新しい婚約者となる男との未来を考えた方が良いんじゃないのか?俺は過去の人間だから、もう、」


 「茜の気にすることではないから、茜も新しい人生を進むといい。」なんてセリフを続けるつもりだった。しかし、茜は俺に資料をぶちまけると更に大きな声で怒鳴っていた。


「何で別れたと思っているのよ?! 自分に少しも非がないとでも思っているの?!」


 それは重々承知している。茜との結婚生活は俺が全て悪い。俺は茜の母親に何度も求婚していたのだから。それを茜に知られ俺たちは別居したんだ。

 だから、茜に酷い仕打ちをした俺より、会長が認めるもっと良い男と一緒になる方が茜は幸せになれるというものだ。


「何か言いなさいよ?!! 言ったらどうなのよ!」


 俺は茜に対して謝罪しか出来なかった。だから、茜に資料をぶちまけられようが、モノを投げつけられようが、俺はジッと耐えていることしか出来ない。これ以上茜に惨めな思いをさせたくない。


「すまない」

「ちっとも優しくなんかない!! こんな優也さんなんて最低。お祖父ちゃんがなんで舞阪の一族に入れたがるのか理解出来ない。お祖父ちゃんはお祖母ちゃんだけを愛してた。とても情の深いお祖父ちゃんなのに、なんで、こんな最低で冷酷な人が舞阪の人間になれるの?なれるわけないじゃない!!」


 茜は言うだけ言うとその場で泣き崩れた。

 座り込んでしまった茜の腕を掴んで抱きかかえようとしたが、「イヤッ!」と腕を振り払われてしまった。俺が茜に指一本触れることも許されないのだろう。

 まるで子どものように泣きじゃくる茜の前に座っては胡坐をかいた。そして、茜の顔を覗きこんでは暫く様子を見ていた。


「茜・・・・悪かったよ。俺が悪かった。」


 今はひたすら茜の機嫌を取ることが最優先で仕事なんてどうでもいい。明日、狩野に入力させれば済む話しなのだから。