「課長、おつかれ・・・・さま・・です。課長?」


 どこからか佐伯の声が聞こえる。俺の部下の佐伯一馬(さえき かずま)は新藤と狩野の先輩にあたり商品開発課の次期課長になる男だ。

 本来なら、俺が茜と結婚し昇進後にこの佐伯がここの課長に収まる予定だった。しかし、茜と離婚した俺には昇進話しが来るとも思えない。

 会長との距離も茜との離婚後は遠くなり、舞阪一族の情報など一つも入ってこない。元々、この一族の情報はベールに隠されたような状態にある為、外部の者が舞阪一族について何か知ろうとしも到底無理な話なのだ。


「しっー! 佐伯さん。こっちこっち!」

「課長はどうしたんだ?」

「茜って女に振られたらしくて落ち込んでいるんですよ。さっきからああやって机に埋もれてますよ。」

「一時期早く帰っていた頃と何か関係あるんですか?」


 新藤と狩野の井戸端会議が続く中、そこへ戻って来た佐伯は二人の所で一緒に椅子に座ってはお茶を貰っていた。

 美味しいとクッキーを頬張りながら佐伯は頭を捻っていた。



「そうだなぁ。あの頃は、俺が入社してまだ長くなかった頃だよな。会長命令とかで朝も出勤は遅かったし、夕方は凄い一人だけ早かったぞ。」

「会長命令ってそれって仕事なんでしょう?」

「多分な。だから、女と遊ぶ暇なんてないんじゃないのかな?」

「そうなのかな? それにしては女々しい雰囲気たっぷりのオッサンだけどなぁ。ほら、佐伯さん、見て見なよ。あれって絶対に女に捨てられた男の哀れな姿って像に見えませんか?」


 そう言って三人が俺の姿を見てはクスクス笑っていた。そんな会話が俺に聞こえないとでも思っているのか、しっかり聞こえているんだ。俺を笑いものにした罰に今日は残業をして貰おう。

 これも課長権限というものだ。