「なんで茜ちゃんは課長と一緒じゃなきゃ残業出来ないんですか? 新人指導したの俺ですよ。なら、残業だって俺がするのが当然でしょ?」
「煩い。課長命令だ。お前は帰れ。」
頑として動こうとしない新藤に流石の俺もこれ以上はどう説明すればいいのか悩んだ。
個人的な感情だけで残業させるなどとは言えない。絶対に新藤にだけは俺と茜の関係を知られたくない。
「新藤さん、課長が送ってくれるので大丈夫ですから。だから、遅くなっても平気ですよ。」
「なら課長が一人で残業すればいいんだよね。新人の茜ちゃんをいびる様な真似しなくてもいいのにね。」
新藤はかなり営業部の連中に口煩く言われているのだろう。何時になったら茜と合コン出来るのかと。その気持ちは分からなくはないが、会長の孫の茜をそんな危険な連中の中へと放り込めはしないんだよ。
オオカミの群れに赤頭巾ちゃんをくれてやる様なものだ。だったら、新藤たちより先に俺が頂くさ。
「いいんですよ。これも勉強ですから。私は少しでも早く仕事を覚えたいし色々学びたいんです。だから、課長がそれに付き合ってくれるのは嬉しいんですよ。」
茜は本当に良い子だ。こんなに嬉しい言葉を投げかけてくれるとは、俺はもう死んでも良いとさえ思えてしまった。
「ならば、俺が教えてやるよ?課長は頭が固いから柔軟に物事を考えられないだろう? 俺ならもっと優しく丁寧に茜ちゃんが分かりやすいように手とり足とり教えてあげるよ?」
「手とり足とりでしたら課長が教えてくれますから結構ですよ。」
「は?!!」
茜が誤解されるような発言をわざと言うと俺の顔を見てはウインクを飛ばした。「冗談じゃないぞ!」という暇もなく新藤は俺の所へと駆け寄っては顔を睨みつけてきた。