茜に残業を指示すると横から割り込んで来たのは新藤だ。なかり不満げな顔をしては俺の顔を睨む様に見ていた。


「入社早々茜ちゃん苛めですか? 課長、残業なら狩野がいるし、俺だって佐伯さんだっているんですよ。」

「ああ、そうだ。お前達がいるから舞阪に残業を命じるんだ。」

「そしたら夜道を歩かせるなんて危ないじゃないですか?」


 どうやら茜を誘いたくてもそのチャンスが巡って来ずにかなり苛ついている様子。茜がこんなにモテる女に成長するとは想像もしていなかった。俺の中では何時までも可愛い茜のままでいたのだが、どうやら、世間ではそれは通用しないようだ。


「舞阪は俺が送っていく。安心しろ。」

「それが一番不安ですけどね」

「何か言ったか?」

「いえいえ、なんでもないっす!」


 渋々自分のデスクへと戻った新藤は、席につくなり机に突っ伏して頭を抱え込んでいた。どうやら営業部のあの連中に合コンに茜を連れて来いとでも言われたのだろう。

 新藤と営業部の連中はそこそこに仲は良さそうだが、こんなに何時までも執拗に付き纏うようであれば何か対策を考えた方が良い様な気がした。


「時間だぞ。お前達は早く帰れ。」


 佐伯は言われるまでもなく、早々と嬉しそうに帰宅準備をしては帰って行った。狩野も時間になると時計を確認してから片付け始めた。そして、のんびりと帰宅準備を済ませると「お先に~」と帰って行った。

 最後まで駄々をこねた子どもの様に居残っていたのは新藤だ。

 新人指導も終わり、俺に隠れて茜に合コンの約束を取り付けるのがかなり難しいようだ。だから、残業終了後に茜を送ると言ってはチャンスを狙っている様で、時間になってもグズグズして帰ろうとはせずに一緒に居残りをすると言いだした。