俺が見合いを断ると話したら美佐が動揺していた。いったい何故そんな態度に出るのか俺には不可解な事だが、もう、これ以上会長に心を掻き乱されるのは真っ平だ。
俺の見合い話に納得のいかない美佐は動揺しっぱなしで、体調に悪いからと俺は早々に人事部を後にした。
俺が見合いを断ると何が問題なのか?と思ったが、もう深入りすることはしないと決めた以上俺は関わるつもりはない。
会長に啖呵を切った以上は退職の日も近い。俺の後を任せられるのは佐伯しかいない。そろそろ、本格的に引き継ぎを始めよう。
開発課へ戻ろうとすると、丁度、営業部の前で茜の名前が聞こえてきた。どんな噂話をしているのかと影に隠れて聞いていると、俺が邪魔したお茶会と言う名の合コンが不発に終わったと文句の言い通しだった。
「なぁ、課長に見つからないように会社出た所で声をかけないか?」
「それいいかも!事前に仕組むからバレるんだよ。」
「課長は年甲斐もなく彼女に首ったけじゃないのか?」
「よせよ。あんなオッサンに可愛い彼女を奪われたら俺達いい笑い者だよ。」
実に言いたい放題の連中だ。俺が仕事を辞めるまでにはコイツらを左遷してやろうかと思ってしまう。会長に直談判するか?「あなたの孫が営業部の男達に狙われていますよ」って。
そんな話を持ちかけた時、あの会長はどんな顔をするだろうか。可愛い孫の茜のことだから営業部だけでなく茜に色目使った連中を一網打尽にしては会長自ら罰するだろう。
それを横で見ている俺は面白いほどに笑えるのだろう。
本当に、虚しい話だ・・・・
「舞阪!」
「はい!」
開発課へと戻るなり俺は茜を呼びつけた。茜はいきなり現れた俺に怒鳴るように名前を呼ばれ慌てて俺のデスクへとやって来た。
「今日は俺と一緒に残業してもらう。いいな。」
「はい」
俺の顔を見るなり怯えたような表情をしていたのに、残業の命令を出した途端に茜は嬉しそうに微笑んだ。俺と残業するのがそんなに嬉しいのか?と俺は勘違いしそうになる。