会長からは今回も強制的に結婚をさせられようとしているが、6年前のあの時のように大人しく従うつもりはない。

 俺は好きでもない女と二度と結婚はしない。それに、そこまでして会社の経営陣に入れなくても良い。

 一時は茜を不幸にした俺だ、そんな資格があるはずがない。


「やっぱり見合いするの?」


 いつの間にか茜が俺のデスクの前に立っていた。俺は慌てて写真を引き出しに入れると急いで引き出しを締めた。

 あまりにも慌てて締めたことでかなり引き出しのぶつかる音が響いた。その音の大きさに皆の視線を集めてしまった。


「その写真は私から返すわ。」

「これは俺の問題だ。」

「でも、」

「お前には関係ない!」


 茜に俺の見合いの心配をされなくても自分の事は自分で面倒はみれる。茜は俺のことより自分が受けた縁談を考えていれば良い。

 なんてこんな悲観的な考えは茜の見合い相手に嫉妬しているからだ。


「すいませんでした」

「いや、俺も言い過ぎた。」


 茜の悲しそうな顔を見ると俺は胸が苦しくなる。これ以上茜を傷つけたくない。なのに、こんな冷たい態度しか取れない俺はきっと気持ちに余裕がないのだろう。

 傷つけたくないとキレイ事ばかり言って俺は茜の為に何をしてやれるというのか。結局、茜には嫌な思いばかりをさせ俺は茜に対しては思いやりの一つもかけてやれなかった。

 今だってそうだ。俺を心配してくれた茜にこんな態度を取るべきではなかった。

 今の態度を後悔していると、俺と茜の異様な雰囲気を感じ取ったのか、皆の刺が刺さるような視線を俺は一斉に浴びていた。

 皆のその視線はまるで「俺が悪者なのか?」と不満に思いたくなるような冷たいものだった。だけど、案外今の俺にはその方が良いのだと思えると開発課から出て行った。