「なんだ? 誰も舞阪に質問しないのか? 聞きたいことは沢山あるんじゃないのか?」
そうは言ったものの、やはり部署は違えど課長という人間相手に平社員は何も言えないのだろう。情けない奴らだ。課長の俺の指示を無視し自分らでここまで行動を起こしたのなら、せめて開き直って自分らの言い分を通してみたら良いのに。
そんな度胸もないのに女の前でだけ威勢よく落としにかかろうとはこいつ等の将来は見えたものだ。
「何もないのか? だったらお開きにしてしまうぞ。」
「待って」
「なんだ? 舞阪。」
茜はこんな席が初めてと云わんばかりの嬉しそうな表情に俺の方が戸惑いを感じてしまう。こんな席は何時までも茜が居る様な所じゃない。さっさと終わらせて家まで送り届ける。
「さあ、帰るぞ」
「ねえ、皆さんがどこの部署の方でどんなお仕事をなさっているのか知りたいんですが教えて頂けますか?」
茜の初々しい笑顔に男達はかなりメロメロ状態だが、ここで自分の名前を名乗る勇気を持ったヤツはいないだろう。どう見ても俺の顔を見てはビクついている輩ばかりだ。
「ねえ、あなたは?」
茜の真正面に座っている男が指名されたが、俺の顔を見た途端に首を振っては下を向いてしまった。
「じゃあ、あなたは?」と、その横に座っている男に聞くもその結果はさっきの男と同じだ。茜は会社の話を聞きたいのか次々と質問をしていた。仕事にかなり興味があるのか、ゆくゆく自分も上へと上がろうと思っているのか、会長から引き継ぐ会社に興味を持つことは良い事だ。
未来の夫となる男と一緒に会社を盛り立てて行くといい・・・・・・しかし、そこには俺はいない・・・だよな?
今更、女々しい男だと思われたくない。潔く茜の未来の夫となる男の為に俺は茜への気持ちを封じ込めなければならないんだ。