「さっさと仕事に取り掛かるぞ。お前達と話していると横道逸れすぎて仕事が遅れる。」
俺が何を言おうが本当にマイペースな部下達は、今日も楽しそうに3時のお茶が弾んでしまっている。しかも、狩野の手作りクッキーとなると新藤が目の色変えて食べたがるのも無理はない。
狩野の焼いたお菓子は天下一品で就職する職業を間違えたのじゃないかと思える程に料理上手な女だ。
茜など包丁一つ持てなくて野菜の洗い方さえ知らない女の子だった。洗い方どころか名前だって碌に知りもせずに最初の頃はかなり呆れたものだ。どんな育て方をするとこんな女の子に育つのだろうかと。
「キモイ・・・・また、思い出に耽った課長がニヤけているよ。」
「ねえ、新藤さん。私、思うのだけど、もしかして課長って恋人に振られたんじゃないかしら?」
「有り得るね。それ、絶対にアリかもよ?」
「そう思うでしょう?」
「思う!!で?相手の女って誰?」
「そんなの私が知る訳ないでしょう?!」
茜の事を考えていると何やら視線を感じてしまった。
その視線の方を向くと、何故か新藤と狩野の興味津々な好奇心旺盛なその瞳が俺を今にも襲いそうな雰囲気だった。
「さあ、クッキー食べたら仕事に取り掛かるぞ!!」
こんな二人の戯言などに付き合っている暇はないんだ。俺は今日も遅くまで仕事があるのだから、こんな連中のくだらない話に何時までも付き合ってはいられない。
「絶対に怪しい」
「怪しいですよね?」
「ああ、怪しすぎる。」
「いい加減仕事に取り掛かれ!!」
本当に心臓に悪い事ばかり言う部下だ。たまには茜の事を思い出してもいいじゃないか!と、怒鳴りたくなってしまう。
けれど、今の俺があるのはすべて俺の自業自得だと分かっている。茜を失って初めて気付いた。俺は、茜の事がどれほどに大事な存在であったのか。