俺からの命を受けた狩野は急いで新藤と茜の後を追って行った。
絶対に茜に不埒な真似などさせるものかと、俺の目はどこででも光っていると新藤に知らしめなければならない。
ところが、
「新藤さ~ん、どこ行くんですか?」
「狩野、お前何してるんだよ。」
新藤と茜を尾行し逐一その行動を俺に報告するように言ったのに、狩野は新藤を捕まえては行き先を聞いていた。
「いえね、課長からの伝言なんですけどね。」
「課長?」
「舞阪さんをかなり心配してましたよ。きっと、新入社員が入社早々事件に巻き込まれたり、他の社員と妙な事になったりしていないかって思ってるんですよ。」
新藤は茜の顔を見るとちょっと気まずそうな顔をしたものの、ヘラヘラ笑っては「そんなことないよ」と言い返していた。
けれど、その愛想笑いが妙に怪しいと感じた狩野は茜の腕を掴んで「一緒に帰ろう」と反対方向へと歩き出した。
「え? 狩野さん?」
「おい、待てよ。狩野!」
「まさか、課長の命令無視で合コンする気じゃないでしょうね?」
「違いますよ。お茶には誘われたけど合コンじゃないですよ?」
本当に世間知らずの茜だった。俺から合コン禁止令を出されたものだから、新藤は「お茶」と言う名の合コンへ茜を誘い出したのだ。
その事にピンと閃いた狩野は尾行ではなく新藤に直接それっぽく言って茜を引き離そうとしたのだ。
「マジ、ただのお茶だって!」
「人数は?」
「え・・・と? 3人だったかな?」
狩野が新藤を睨みつけると「いや、4人かな?」と、人数が増えていった。更に、狩野が立ち止っては仁王像の様に腕を組んで睨みをきかせると新藤は両手を合わせてゴメンのポーズを取っていた。
「ごめん! どうしてもって課長抜きの合コン頼まれてさ。断れなかったんだよ。」
と、本当の事を話した新藤に狩野はかなり呆れた様子だった。