「新藤さん、おはようございます。」

「茜ちゃん!! なんで鬼課長と一緒に出勤したんだよ?!!」


 朝の挨拶をした茜にさっそく新藤が食いついた。茜はかなり困った顔をしたものの「困っている私を助けて乗せて下さったんですよ。」とサラリと言い放った。

 全く、女って生き物は恐ろしい者だと今更ながら思い知ってしまう。俺が新藤に聞かれてもなんと誤魔化そうかとオタオタするばかりなのに、茜はいとも簡単に新藤の質問をかわしていた。やはり、女の方がこんな時の知恵は上手く働くものなのだろうか?


「え? じゃあ、昨夜から一緒にいて課長が茜ちゃんの家に泊まったとか、朝ごはん一緒に食べたとかで一緒に通勤してきたんじゃないんだ?」

「当然じゃないですか。家を出た所で足を痛めて座り込んでいたら、偶然課長が通りかかって乗せてくれたんです。お蔭で助かりましたよ。ありがとうございました、課長。」


 茜は平気な顔をして嘘を吐いた。しかし、その嘘に俺は思わず頷いた。その嘘だと、茜の家の前を俺は通勤道路として使っていることになる。だから、茜の家の前を通っても誰も疑問に思わなくなる。

 実に巧妙な嘘だと思えた。


「な~んだ、つまんない。」

「え?」

「いや、こっちの話♪ それでね、今度の週末に合コンするけど、勿論、茜ちゃんも参加するよね?茜ちゃんの歓迎会を兼ねた合コンでもあるんだからね。」


 どこの世界に新入社員の歓迎会が合コンなんてところがあるんだ? 新藤のやることは危なっかしくて見ていられない。悪いヤツではないから茜の心配は必要ないと思うが。

 茜は世間にはどれくらい慣れているのか、お嬢様育ちの茜が合コンなど経験したことはないだろう。