茜は清々しい顔をして会社へと出勤した。俺はそんな茜とは対照的にかなりやつれた表情での出勤だ。

 今朝、茜のアパートを出る時、一緒に車に乗って出勤したのだが・・・


『あら、平気よ。だって私達元夫婦だったのだから一緒に出勤したからと何か問題あるの?』


 やはり茜は平然として俺の車の助手席に乗って一緒に会社へと出勤した。まるで昔の様にその席は自分の座るところだと言わんばかりに助手席に乗った。誰も、一緒に車出勤するとは言っていないのに。

 会社へは多くの社員達が公共の乗り物を利用している。だから、車通勤は僅か一部の者だけだ。俺も、入社したばかりの頃は勿論電車で通勤していた。しかし、課長の辞令が出てからは役員用駐車場に一台分のスペースを会社から与えられた。それ以降は車通勤が可能となった。

 駐車場で他の社員と遭遇する確率は低いものの、駐車場へ入るその道のりを社内の人間に見られないとも限らない。そうなると、俺は男だから良いが茜は女だから善からぬ噂が立てば茜の将来に影響を与えないとも限らない。

 なのに、何故、茜は平然と昔の様な行動を取れるのか俺には茜が理解出来ない。

 茜から離婚したいと俺から離れたのに。今更、茜が俺とヨリを戻したがっていると考えるのはあまりにも都合が良すぎる。

 茜には今度こそ幸せな結婚をして貰いたい。茜を大事にしてくれる男がどこかに居るはずだ・・・・・



 こんなことを考える俺は愚か者以外の何ものでもない。

 なのに、俺の気持ちなどこいつ等には特に分からないまま騒がれるのは不本意だ。


「課長!! 今朝、俺の茜ちゃんと一緒に出勤したって本当ですか?!!」


 さっそく噂になってしまった様だ。それも、一番面倒な新藤にその噂が伝わったところをみると、どうやら、俺と茜の同伴出勤は社内に広まっていることだろう。

 面倒が増えるだけで俺には毎日が頭痛の日々になりそうだ。