俺は、今、茜に招待を受けて茜のアパートへとやって来ている。ここは俺と離婚後に借りた学生向けのアパートらしい。なので、一人住まい用の実にこじんまりとした部屋になっている。

 一人で暮らすにはまあまあの部屋で、玄関になっているドアを開けるとそこはいきなり四畳半程度の広さのダイニングルームがある。小さな流し台と小さ目の食器戸棚と冷蔵庫がある。冷蔵庫の上には小さな電子レンジが置いてあるだけで他には目ぼしいものは何もない。

 その部屋の奥が茶の間になっているが、ここは寝室兼茶の間のようだ。広さは六畳位だろうか。一人で過ごすには十分だがかなり圧迫感はある。

 押し入れも小さなものが一つ茶の間の方にあるだけで、そこにはテレビと折れ脚の小さめのテーブルがあるだけで他には何もなかった。

 お嬢様の茜がこんな部屋で何年も寝起きしていたとは信じられなかった。

 何故、実家へ帰らなかったのだろうかと俺は不思議だった。けれど、考えてみれば、あの頃、茜は俺が美佐に求婚していたのを知っていた。きっと、夫が妻の母親に夢中になっている姿を見て幻滅したのだろう。

 茜にも美佐にも悪い事をしたと思っている。だけど、あれはあれで俺は後悔はしていない。あれだけのアプローチをしたからこそ美佐を諦めることが出来たのだと感じる。

 だからと、こんな話を茜にしたところで、余計に嫌われること確定なので話さない方が良い。


「優也さん、好きな所に適当に座って。って言っても、座るところはそこしかないんだけどね。」


 舌をペロッと出して笑う姿は昔と同じ顔をしている。

 こんなに可愛い茜をどうして俺は手放せたのか不思議だ。今更そんな事を言っても話にはならないのに・・・・自分で自分がこんなに女々しい男だとは知らなかった。