買い物の内容は全て茜に任せた。但し、会計は絶対に茜には任せない。やっぱりここは男として俺が支払う。そう言って財布からお金を出すと茜は「ありがとう」と嬉しそうな表情を俺に見せてくれた。

 その笑顔は特別作られた笑顔でなく、以前から見慣れている素直な茜の笑顔だ。俺は胸がキュンとしてしまうと支払いをしようと札を持つ手がもたついてしまう。

 たかが女に笑顔を向けられたからと、年甲斐もなく胸がドキドキするのは相手が茜だからだろうか? それとも、長い事女とこんな時間を持っていなかったから?

 どちらにしても俺は茜のアパートで一緒に食事をしても良いのだろうか?別れた元夫とは言えど俺達にはそんな関係は全くなかったわけだし、今も茜は昔のお礼だと言う。

 そんな茜に俺は理性が保てるのだろうか?

 すると、あの見合い写真を思い出していた。どうしても頭から離れない見合い写真。俺はやっぱり茜が良いと思えた。だから、茜のイトコの沙織さんとの見合いは断るべきだとハッキリ心は決まった。

 そうと決まれば善は急げだ。

 茜が計算を済ませた後の品物をレジ袋へ袋詰めしている間に会長へ報告しよう。沙織さんとは見合いはできないと。


「あ、会長、私です。黒木です?電話で申し訳ありませんがあの見合いは断ります。やっぱり私にはもう見合いは出来ません。」

「なんだ、黒木か。また、何を寝ぼけたことを言っている?もし、この話を蹴るようなら、」

「覚悟は出来ています。」

「覚悟? 何の覚悟だ? 茜も見合いをさせるつもりでいるが、茜は了承したぞ。いい加減君も将来を真剣に考えた方が良くないか?このまま、愛だの恋だの言うようなら私としても考えがある。」


 それだけ言うと電話を一方的に切られてしまった。

 会長の話では茜は未来へ向かって進もうとしているようだ。茜が見合いを了承したと言った会長の言葉が信じられなかった。