「そう言えば課長って一時期もの凄く早く帰宅していた時期があるって佐伯さんから聞きましたよ。もしかして、それってアレですか?」
「アレとは何だ?アレとは?」
早く帰宅していたのは、あの当時、結婚をしていた妻だった茜の学校の送迎をしていたからだ。まだ高校生だった茜を歩かせるなんて出来なかった俺は毎日車で送り迎えをしていた。
しかし、茜がある日突然俺の前から姿を消して茜に男が出来るとその役目も終わってしまった。
あの頃が懐かしくて今も時々学校への道を走ることがある。茜は今は何をしているのだろうかと、幸せになっているのだろうかとそんな事を考えてしまう。
「黒木課長?黒木課長ってば?!」
「あー、ダメダメ、物思いに耽ってるよ。こんな時はどんなに声を掛けても人の声なんか聞こえちゃいないよ。諦めろよ狩野。それより、それなんだ?」
「皆でお茶でもどうかって思ってクッキー焼いてきたのよ。」
「おおっ!気が利くじゃないか。流石、開発課一の美人狩野ちゃん♪」
「本当に新藤さんってお調子者なんだから。せっかくのイケメンが台無しですよ。」
俺の目の前の新藤と狩野はとても気さくで仕事のしやすい部下だ。こいつらとは既に3-4年の付き合いになる。
そんな年数になるのだと思うと、早いもので茜と離婚してからも4年の月日が過ぎてしまった。
「茜・・・・何してんだろうなぁ」
ポツリと呟いたその名前に反応した新藤が俺の顔を覗きこんでいた。いきなり目の前にドアップで近づいた新藤に俺は驚いて椅子から転げ落ちそうになった。
「お前・・・心臓に悪いだろ!いきなり現れるな!!」
「茜って、もしかして、さっき言ってたコレ?」
小指を立てるな! しかし、どうして人の人生がそんなに気になるのか俺には理解できない。人は人、俺は俺だ。