半信半疑のまま俺は茜について買い物へと行った。茜の住んでいるアパートの近くにあるスーパーが品質が良くて値段も安いらしい。そう言って俺をスーパーへ連れて行っては買い物カゴを持たされた。
昔の茜からは想像もつかない光景を俺は目の当たりにして驚きを隠せずにいた。
店内のどこにどんな品物が並んでいるのかを熟知しているその足で、さっさと目的の場所へ行っては目的のものを取り出す。
「う~ん、今日は贅沢にこっちにしようかな?」
呟く物言いは昔のままの可愛い茜だ。しかし、並んでいる商品を見ているその瞳は昔の茜とは違う。物色する茜は既に主婦の様な眼差しで品質と価格の睨みあいをしている。
「ね、優也さんはお好み焼は豚肉派? それとも、牛肉? あ、そうか、シーフードって言うのも良いわよね。」
まるで主婦の様に見える茜が俺には眩しく見えた。
「? どうしたの?」
「いや、俺は何でも食べるよ。茜の好きなものにすればいい。」
「優也さんの好きなものを作ってあげる。だって前は主婦業なんて出来なくて何も食べさせること出来なかったでしょ?だから、今日はそのお礼。私が作ってあげるからね。」
結婚当時、まだ高校生でお嬢様だった茜は何も出来なかった。それが、今では自分で買い物して料理を作れるまでになったのかと感心してしまった。
普通なら茜の年頃の娘には当然のことなのだろうが、茜は他の子とは違い特別なんだ。何も出来なくてもそれが当たり前の子だったのだから。
「美味しそう! ねえ、ねえ、これ食べよう!」
「・・・・お好み焼を食べるんだろう?」
「あら、いいじゃない?ね?買って帰ろう。」
何気に出て来た茜の「帰ろう」発言。つい、昔を思い出して一緒に住んでいた頃を懐かしく思う。