確かに茜はもう子供じゃない。だから、以前のような関係を求めたところで、それは無理なのだと俺も茜も気づいている筈だ。
俺は茜を一人の女性として意識している。話す仕草や物腰など以前の子供のような茜ではない。
だからと、今更、茜を一人の大人の女性として扱うと反発を食らうようで、俺には出来ないと思う・・・たぶん。
ならば、今のままでいい。あの頃の楽しかった時に戻ったように楽しめればそれで今は十分だ。
「優也さんのオススメ料理はなに?」
「そうだなぁ、鍋は?」
「冬なら即OKだけど、もう、そんな季節じゃないわよ?」
やはり、鍋はないか。どんなに大人になっても茜に鍋は似合わない。
どちらかと言えば、茜に合うのはフランス料理のフルコースだ。洗練されているだけじゃなく、見た目の華々しいその姿がフランス料理に似合っている。
そして、ここまで綺麗になった茜は、誰の手によってこんな妖艶な姿に変えられたのだろう?
あの時、交際していた男だろうか?それとも、大学で新たに出来た男だろうか? 考えたくないが、何人もの男の手によって今の茜が作り上げられたのかと思うと嫉妬で気が変になりそうだ。
「ねっ、お好み焼き食べない?」
「は?」
お好み焼きって、キャベツだけが具で小麦粉と卵で混ぜ合わせて焼いたあの粉ものの事か?
いやいや、今はいろんな具材があるから、茜でも食べられるようなものか?
どちらにしても、そんなものを茜は食べたことあるのか?お嬢様育ちの茜が。
「私ね焼くの上手なのよ。自炊しているからお好み焼きはよく作るの。なかなかの腕前よ?」
包丁だってまともに使えなかったのに、そんな茜が自炊しているとは信じられなかった。