「茜、新藤と帰ったんじゃなかったのか?」
「うん、でも、ちょっと気になって。」
茜の沈んだ表情を見るのに慣れてしまっていたのか、その顔を見て違和感を感じない俺はこれまで酷い男だったのだと思えた。
もう、茜のこんな姿を見たくないと思って居るのに未だに俺は茜に嫌な思いばかりをさせている。
「どうした。初めての出勤で神経使ったのか? あ、でも、新人教育の先輩が新藤だから楽しく一日を過ごせただろう?」
「・・・・それより、これ受けたの?」
茜は写真を真剣な目をして見つめていた。俺が望んで見合いをするとでも思っているのだろうか。
俺が望むも望まないも茜には関係のないことだ。既に離婚してそれぞれの道を歩き始めた俺達には共通の未来はないのだから何も気にすることはない。
だから、茜から写真を取り上げた。
「お前の気にすることじゃない。それより、今夜の飯はどうするつもりだ?久しぶりに一緒に飯でも食べないか?」
茜は俺に背を向けると部屋から出て行こうとした。
それが答えなのだと分かると俺は立ち上がろうとした腰を下ろし腕を組んだ。茜がここから出て行くのを待ってから帰ろうと思った。
すると、俺の方を振り向いて「一緒に食べよう」とボソリと呟いた。
俺はその声が聞こえるとつい顔が緩んでしまった。
「茜は何を食べたい? 今日は手作りは勘弁してくれよ。新藤に振り回されて疲れたんだ。」
「うん、何でもいいよ。優也さんが食べたいもので。」
笑顔でそう答えてくれる茜を見ると昔とちっとも変わっていないと嬉しくなる。
「茜は小食だったからな。もう少し食べないと大人になれないぞ。」
「もう大人です! 何時までも子ども扱いしないで。」
少し剥れる茜を見ると本当にタイムスリップした気分になる。こんな時間が永遠に続けばいいのにと俺の心の中ではそう願っていた。