佐伯は時間になれば帰り支度を始めさっさと帰って行く。それは狩野も同じことだ。しかし、新藤は変わったことや珍しいことがあれば中々帰ろうとはしない。

 まるで小学生の子どもの様に居残りをしては教師に帰れと怒られる、あんな状態に陥る。

 きっと、小学校の先生は新藤には苦労したんだろうなと、今更ながら可哀想に思えてしまう。

 あまりにも鬱陶しい新藤に一睨み利かせると流石の新藤は茜を引っ張って帰って行った。小さな子どもではないから茜の心配は要らないだろう。そう思うと、椅子に深く座り直して引き出しを開け見合い写真を取り出した。

 この写真をどうすべきか、決断を下すのは早い方が良い。出来れば数日中に会長へ報告する必要がある。見合いを受けるのであれば会長からの連絡待ちで良い。しかし、見合いを断るのであればもう残された日にちはない。


「困ったな・・・・」


 見合い写真をデスクに置くと腕を組んで暫く目を閉じて考え込んでいた。

 悩んでもどうにもなりやしないのだから、自分の気持ちに従って早く行動に起したほうが良い。そうと判ってはいるが、断るつもりなら辞表を書く必要がある。


「辞表か・・・・書くかな?」


 もしかしたら、俺が辞表を書くつもりでいると会長はお見通しなのかも知れないな。茜の母親の美佐への求婚に失敗し、結婚した茜とも破局を迎え、今度は茜のイトコなんて・・・・そんなこと出来る訳ないだろう。

 会長も酷な人だ。



「沙織さんと見合いするの?」


 誰もいないはずの部屋に戻って来た茜が俺のデスクの前に立っていた。いつの間に戻って来たのか、考え込んでいた俺は気付かなかった。

 茜は見合い写真を手に取ると神妙な顔をしてその写真を眺めていた。