「ただいま戻りました!」
「遅くなりました。」
新藤と一緒に戻って来た茜の表情はいやに嬉しそうだ。会長の孫ともなれば、合コンメンバーも沢山集まったことだろう。
「どこまで案内していたんだ? 随分、ゆっくりだったな?」
「え?だって、全部説明しなきゃ社内案内にならないじゃないですか? それに、各部署の特徴やどんな癖のある人間がいるのか知っておいた方が得でしょ?」
新藤の幅広い顔に会わせて茜を連れ回したのだろう。きっと、どこででももてはやされてさぞ良い気分だっただろう。第一、茜にはそんな説明は必要ない。
「余計な情報は必要ない。」
「必要ですよ? だって、ほら。例えば、ここで言えば、狩野はシェフ並の料理の腕前があるし、課長はおっかないし、あ・・・ものの例えですからね。本気に取らないでね。」
俺がおっかないのは例えではなくて本音だろう? コイツが建前で話すとは思えない。こういう所は実に図々しい。
「総務部は可愛い女の子が多いけど、結構僻み根性酷いからほどほど相手すればOK。人事部は部長が愛想は良いけど仕事は部長補佐の竹川さんが優秀だから、竹川さんに相談した方がいい。それに、」
人事部長の舞阪光一は茜の父親だぞ。なのに愛想だけで仕事は部下の方が出来ると言うのは茜にはショックな説明だろう。
「あ、そうそう。専務の舞阪芳雄は女好きだから要注意だな。きっと茜ちゃんは可愛いから直ぐに目を付けられてしまうな。」
そんなことはお前より茜の方が断然その情報は詳しいぞ。なんといっても専務は茜のイトコだ。
「会長なんてただのクソジジイだ。ありゃダメだね。五月蠅くてかなわないや。利益追求は良いんだけどさ、社員に隠し事が多すぎてかなり怪しい爺さんだ。下手すりゃありゃ愛人の5人や10人はいるぞ。」
その会長は茜の祖父で、愛人どころか亡くなった妻一筋の立派な人だ。