「俺にもコーヒーをくれ。ミルクも砂糖も要らない。濃いヤツを一杯頼む。」


 自分のデスクへと座るとかなり疲れたのか椅子に深々と座ると溜息ばかりが出てしまう。そして、会長から預かった見合い写真を眺めながら、今度の妻は大和撫子なのかと想像も出来ない未来を思い描いていた。

 16歳の次は30歳のおばさんかと、溜め息しか出てこない俺は写真をデスクの上に放り投げてしまった。

 すると、それを新藤がヒョイと取り上げてしまった。


「なんすか?これ?」

「あ?! こら!! 勝手に見るな!!」


 なんにでも興味を示す新藤の前で写真を放り投げてしまった。まさか、こんなところで見合い写真を見ているとは思わないはずだ。しかし、勘の良い新藤が見合い写真と気付かないはずはない。


「へ~ 色っぽい人。これって、その茜さんって言う人ですか?」

「違う。とにかく返せ。新藤!」

「ねえ、佐伯さん、これ誰だか知ってますか?」

「さあ・・・俺は知らないが」


 佐伯も新藤も知る訳がない。社長の娘であっても会社には殆ど出て来たことのない人だから。

 けれど、茜はイトコなのだから写真を見ればすぐに分かるだろう。本当は見られたくなかったのだが。新藤に写真を取り上げられ皆で面白半分で見ているのを俺が血相を変えて取り返すのも妙だと思って放置した。


「この人、社長の一人娘の沙織さんだわ。」


 やはり茜は見ただけで直ぐに分かってしまった。

 すると、他の連中は社長の娘の写真だと分かると慌ててその写真を閉じると俺のデスクへと返した。


「うわぁ。大変なことするところだった。」

「あれって絶対に見合い写真だよね?新藤さん、見合いしたらどう?」

「ヤダよ。絶対に嫁に一生頭が上がらないだろう? そんな結婚はお断わりだな。茜ちゃんなら俺考えてもいいよ♪」


 何も知らない新藤は茜に言い寄っていたが、茜こそ会長の孫でこの会社の後継者に一番近い人物なのだ。