「私は茜が営業部を希望したのに何故商品開発課へ配属されたのかを知りたいのであって見合い話をする為にここへ来たのではありません。」

「茜とは円満離婚だ。今更どうでも良い事だろう? しかし、お前は会社の経営権が欲しいのだろう?だから、社長の一人娘の沙織と見合いして結婚しろと言っているのだ。こんな美味しい話はないだろう?」

「ですが」

「命令だ。来月早々に見合いをして貰う。その後結婚については社長の英寿と相談して式を何時にするか決める。」


 確かに経営権は欲しかった。しかし、茜を失った時、そんなものはどうでもよくなっていた。本当に俺が欲しいのは安らぎなんだ。

 好きな女と一緒にいられれば、もう、会社の経営などはどうでもいい。今はそんな気持ちが強くて昔の様な野望はなくなってしまった。

 これと言うのも茜と知り合ったからだ。茜の存在がこんな俺を作ってしまった。なのに、今更、茜のイトコと結婚してこの会社を盛り立てて行けと言うのか?

 そんなのは無理に決まっている。



 商品開発課へと戻ると、まだ、そこは新入社員の歓迎会の最中で、佐伯も新藤も狩野もかなりコーヒーだけで酔った様に会話が盛り上がっていた。そんな三人にかなり圧倒された茜はただひたすら新人らしく先輩社員に言われるがままコーヒーを飲みながら出されたお菓子を食べていた。


「課長? どうしたんですか? さっきこの部屋を出てから数分と立ってないのに、やけに年齢だけ年食いましたね。まるで初老のオッサンみたいなやつれ方してますよ?」


 相変わらず口煩い新藤が絡んでくる。こんなセリフの時は無視するに限る。

 そもそも、勤務時間中なのに、手作り菓子を広げてお茶会している会社がどこにある?!と、こいつらに話したところで止める気もないのだろう。追加のコーヒーを淹れている狩野を見ると俺は更に肩の力が抜けてしまう。