「光一君の子だよ。」

「でも、あの二人は離婚したのでは?」

「表面上はな。光一君の為に美佐は離婚したが、どうやら心だけはずっと繋がっていたようだ。」


 会長は離婚した夫婦に子どもが出来ても特にそれを不愉快に感じるような表情は見せていない。

 もしかしたら、会長は二人が今も愛し合っているのに何故離婚に至ったのか、その本当の理由を知っていたのではないだろうか。俺はそれを最後の最後まで見抜けずにマヌケの俺は美佐に求婚し続けていたのだろう。


「そうですか。それはおめでとうございます。念願の美佐さんの男子誕生にはお祝いしなければいけませんね。」

「ありがとう。黒木君もそろそろ落ち着いた方が良い年齢だろう?」


 そう言うと会長は俺に厚紙の様なものを手渡した。何だろうかとそれを受け取るとそれはどう見ても写真の台紙だった。

 台紙の表紙を開いて中を見ると、そこには、明らかに見合い写真と思われる写真が入っていた。


「社長の英寿(ひでとし)の娘の沙織だ。今年で30歳になる。茜とはイトコだが全く気性は似ておらずおっとりした大和撫子タイプの良い娘だ。」

「素晴らしい方なのですね。」

「黒木、沙織と見合いをしろ。」


 俺が茜の配属先の苦情にここへやって来るのを会長は分かっていてこの写真を準備していた。そして、茜と同じ部署で働かせながら俺には茜のイトコと結婚しろと言う。

 どうして会長はここまで俺にこんな屈辱的なことをさせようというのか。

 茜との結婚もそうだった。俺が美佐との結婚を望んでいるのを知りながら茜と縁談を組まされ否応なしに結婚させられた。

 今度は茜のイトコと同じ様な道を辿れと言う。

 俺にはこんな屈辱は絶えられない。